ストップ・ザ・ユビスイ
保育園に迎えに行ったら、絵本コーナーで我が子monmonが『だるまさんが』を読んでくれという。『ちいさなねこ』でもなく、『からすのパンやさん』でもなく。久しぶりに読み聞かせてみると楽しくなった。柔らかい絵柄、ひねり過ぎない展開、体いっぱい真似られる表現。いい。
さて、目下のmonmonの悩みは指吸いである。4歳を迎えてもなお、まだ吸っている。随分と回数は減ったが眠くなると途端に……。歯並びのことを言われると止めてもらわねばならぬのだが、なかなかうまくいかない。
同時に私にとって悩ましいのは、一方的に止めさせてしまうこと自体である。と言うのも、正直いつまで吸っていたか紙面に書くのは憚れる程、私は吸っていた。15、6歳になって体が急成長するまで、左手の親指のほうがはっきりと長かったくらいだ(もっともmonmonは両方吸うので長さは変わらないが、余計にたちが悪い気もする)。親族からは「指吸いも遺伝するのか!」と言われるが、DNAにはさすがに書いていないと思う。分からんけど。
そんなわけで、自分のことを棚に上げるようで何ともやりにくい。
それともう一つ、はっきりと記憶していることがある。指吸いしている時の感覚だ。その瞬間、一切の不安は消え去り、霧がかかっていた脳みそが冴えわたり、思考がまるでリニアモーターカーのごとく滑らかにかつ高速に作動し始めるのが如実に感じ取れる。何故、皆吸い続けないのか? 真剣にそう考えていたくらいだ。もし大人まで吸い続けていれば、あるいは凄いことになっていたかもしれない。所謂、これは一休さんで言うところの指で頭をグリグリする行為であり、L(エル)で言うところの爪を噛む仕草であり、金田一のモジャモジャ頭をかきむしることに相当するのだ。
例えばこういうことだ。突発した複数の不可解な事件。何かがお互いに関係しているはずだが、一向に関連性が分からずにバラバラ。糸口すら掴めない。手がかりとなるはずの物品を幾つも貼り付けたホワイトボードの前で皆が疲労と諦念の色を濃くしている。その時、じっとホワイトボードを眺めていた一人の刑事がゆっくりと親指を口に含む。それを見ていた警部がはっと息を飲む。そして、ほんのしばらくの時間が経った後、刑事はおもむろに叫ぶ。
「ふぁほふぁふぉへふぁ!(謎は解けた!)」
親指を抜いた刑事は事の顛末を一つひとつ説明し始める。たっぷりと唾液の付いた指で手がかりの物品を触りたおしながら。傍で話を聞いている女性刑事の顔面が、はっきりとひきつっている……。
そういうことだ。
何なら会社員でも、仕事に疲れてきたら一服行くかと立ち上がる。喫指室に入り、ゆったりと指を吸う。心は落ち着く。有害な煙など出ない。嗜好品にお金も費やさない。税金も払わない。
そういうことだ。
もっとも、世界は如何様にも進歩するから、数々の魅惑的なフレーバーや味を生み出す指塗り専用ソースが売り出されるかもしれないし、あらゆる嗜好には結局税金が掛けられるかもしれない。
まあ、そんなわけで独り悩ましい日々。
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