『狂言えほん しどうほうがく』

作: もとした いづみ
絵: 青山 友美
出版社: 講談社

番外編となると、いつの間にか伝統文化の絵本を紹介するコーナーと化してしまっているような気もしますが……。
今回は、狂言絵本です。狂言というと、大人でも馴染みのない人がたくさんいると思います。かく言う私も、まだ実際に観に行ったことはありません。能なら、学生時代に無理矢理観に行かされたことはありますが。基本的には、滑稽な話の芝居であり、名前やら多少のルールやらが取っ付きにくいだけで、ストーリーはいたってシンプル。

いろんな狂言が絵本になっているのですが、この『しどうほうがく』は、馬と人間しか出てこないので、絵本としてはよりわかりやすいかな、と。殿様と太郎冠者(たろうかじゃ。召使い。基本、家来の筆頭は太郎冠者という名前)が出てきて、威張り散らす殿様に対し、暴れ馬を使って仕返しする話です。ただ、それだけではありますが、主従関係、威張り、憎しみ、懲らしめなどが理解できていないと、意味合いを掴むことはできません。その点で少し大きい子向けかと思います。小さな子には、殿様が豪快に馬から落とされる様が面白く感じられるのではないでしょうか。

素朴な感じのする絵柄で、よく雰囲気が出ています。ともすればこの手の絵本は、原色でベタ塗りをしただけのようなメリハリのないものも散見されるのですが、この絵本は丁寧に色が載せられていますね。

狂言のような昔からある笑い話は、まあ、正味本当に素朴です。その分、時代を越えて共通した面白味が含まれています。他の笑いの伝統文化も同じことが言えます。何度も使えるように形式化されることで、どうしても単調化してしまいますが、それを各時代の演者がアレンジしたり、改変したりすることで、常に新鮮さも与えられます。
素朴過ぎてつまらないと思う方もおられるかもしれませんが、私が思うに、それぞれの演芸に対し、気持ちを合わせることが大事かな、と。現代の先鋭的で激しく刹那的な笑いに応じる時は、観る方もそんな態度で、何度も観たようなゆったりとした可笑しさに接するときは、観る方もそんな態度で。狂言から落語、講談、現代劇、漫才、漫談、漫画にコメディに至るまで、気持ちさえ合わせれば、多彩な笑いが楽しめます。

我が子にもそんな広い感受性をもってくれますように……。たまに感受性有り過ぎると笑い上戸にもなりかねませんけどね。