『がまの油』

作: 齋藤 孝
絵: 長谷川 義史
出版社: ほるぷ出版

声にだすことばえほんシリーズの一つです。他に、『知らざあ言って聞かせやしょう』『ゆく河の流れは絶えずして』などなど。でも、この『がまの油』が一番はまるのではないかと密かに思っています。

いわゆる物売り口上なんですが、話としては落語を元にしています。上方落語では、桂坊枝さんが熱演されていたりします。それから京都の太秦映画村でも観たことがありますが、こちらは落語と違ってオチがないので、別の手法で滑稽さを出して楽しませてくれます。

発される言葉の流れが本当に心地良いんです。大人が読んだってわからない言葉は幾つも出てきます。けれど、テンポが乗ってくるとそんなの気になりません。西洋の言葉とはまた違っていて、流れるけど刻みのある、それでいて硬さのない言葉。日本語の奧深さを感じます。

文章を読んだだけではなかなか雰囲気がわからないと思いますので、どこかで一度口上を実際に聞いてみていただきたいです。あるいは、前知識なく、どんな風に声に出したら気持ちよく聞こえるのか、お子さんが工夫しながら読んでみるというのも面白いかもしれません。

絵は長谷川義史さん。正直、長谷川さんの絵を最初に見たときは、なんちゅう野暮ったい絵だ、と。でも、幾つか見てるうちに次第に愛着が湧いてきて、近頃では、登場人物が絵本の中で愉しげに踊っているような気さえ感じられます。『がまの油』には、長谷川さんの豪快な絵が実にぴったり。

残念なのは、後半、酒に酔って口上に大失敗するところが思い切り省略されていること。落語的にはここからが面白いんですが、まあ、それは大人になってからの楽しみということで……。
縁日になったら、物売り口上がそこらここらから聞こえてくる、そんな時代がまた来ればいいなぁ。