『ケツアルコアトルの道』

作: 船崎克彦
絵: スズキ コージ
出版社: ほるぷ出版

『神話絵本』というものが、業界に当然として通じる確固たる絵本ジャンルなのかどうか過分にして知りませんが、これは神話絵本の一つです。

多くの人は様々な神話の物語を何となく耳にしたことはあっても、詳しくはなかなか知らないのではないかと思います。真実が込められていたり、事実として信じているということもあるかもしれませんが、基本的な受け止め方は空想的、幻想的な物語です。
専門家はどういうか知りませんが、個人的には神話には3つの分類があると思っています。一つは物語として非常に練られたものです。各地域の伝承や小さな神話が組み合わされ融合された後に、ダイナミックな物語として昇華されたものではないかと。北欧神話やギリシャ神話、ローマ神話などはそんな感じがします。
二つ目は、国家の正統性を示すような物語。創作された感がプンプンしていて、話としてあんまり面白くないものです。日本神話の一部は私にはそんな風に感じられます。
三つ目は、手付かずの、何でこんな話が残っているんだろうという原石のような話。事実を何らかの形で反映しているにしても、不思議な物語です。

ケツアルコアトルと聞けば、オカルトというか地球外生命体好きの人にはピンとくるのかもしれません。あるいは歴女にも(世界史好きの歴女がいれば、の話ですが)。中南米のアステカ文明の神様ですが、その伝説から地球人に文明を与えた宇宙人であるとか、スペイン人の侵入をケツアルコアトルの再来と勘違いしてしまったとか……。いずれにせよ、名前からして魅惑があります。
この『ケツアルコアトルの道』は、その神話を元にした絵本です。上で述べた分類からすると、三つ目ですかね。太い輪郭線で描かれる人物や建造物は、荒々しいながらも迫力があります。ライバルであるテスカトリポカも恐ろしい姿です。色とりどり、暑い中南米を感じさせる絵で楽しいです。
テスカトリポカは、目には見えないと表現されたり、またいろいろと変身したりもするので、子どもにはちょっと意味が飲み込みにくい存在に思われます。神話なのでその辺はやはり理解の難しさがあります。物語自体は、テスカトリポカが主役なんじゃないかというくらい、テスカポリトカだけが様々暴れ回ります。で、テスカトリポカの策略により、ケツアルコアトルは国を去っていくのですが……。

この絵本だけで子どもが何度も楽しんでくれる、という類の絵本ではないかもしれません。どちらかというと、少し大きくなっていろんなことがわかり始めた頃に読んで「ああ、この地球上には多様な文化が存在しているんだな」と興味をもってくれたりすると嬉しいなぁ、と。あるいは、シンプルにデフォルメされた絵だけじゃなく、何かギュッと詰まったエネルギッシュな絵に刺激を受けて、絵心なんてものをいささかなりとも養ってくれたらなぁ、なんてことを思いつつ。

『神話絵本』シリーズは他にも幾つかあるので、自分の好みの神話があったら、一度手に取ってみるのも良いのでは。